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学園ドラマの名作を彷彿させる原作
原作「Pitch Perfect: The Quest for Collegiate A Cappella Glory」は、2006年から2007年にかけての大学アカペラ選手権シーズンを追った実録本。前年にトップの座を奪ったヴァージニア大学の男性グループHULLABAHOOSと彼らへの復讐を誓うオレゴン大学の女性グループDIVISIの仁義無き戦いと、保守的な大学アカペラ界に新風を吹き込むタフツ大学の男女混合グループBEELZEBUBSによる独創性の追求がフィーチャーされた。プロデュース第2弾を探しているときに友人から「絶対に映画向き」と勧められて本を手にした女優エリザベス・バンクスは「一般的とはいえない世界に生きる風変わりな人が主役で、大好きな映画『スーパーバッド/童貞ウォーズ』や『ミーン・ガールズ』『チアーズ!』に通じると感じたの。何かに取り憑かれたように熱中する人々の世界観を探り、誰もが共感できるコメディに仕上げるのは面白いと思ったの」と語る。

企画を進行させたバンクスの業界人脈
原作が気に入ったバンクスはすぐに製作会社を共同経営する夫マックス・ヘンデルマンとともに映画化を決意。まずは彼女が出演したTVシリーズ『30 ROCK/サーティー・ロック』でエミー賞候補にもなっている脚本家ケイ・キャノンに自費で脚色を依頼した。そしてキャノンが書いた脚本を気に入ったユニバーサル映画から映画化を打診されたのは、カルトSF『スリザー』を製作したポール・ブルックス。同作でバンクスをヒロインに起用したブルックスが彼女の作品選びのセンスを高く評価していたことも企画にGOサインを出すのを後押ししたわけで、映画界で着実に歩みを進めてきたバンクスの人脈の勝利といえる。

ブロードウェイからハリウッドへ
企画にGOサインが出るや監督探しがスタートした。バンクスたちが求めていたのは、「ひとクセあるコメディ要素を完璧に表現でき、ミュージカルに精通していて、振り付けの重要性も理解できる」人材だった。プロデューサー陣が白羽の矢を立てたのがブロードウェイ・ミュージカル「アベニューQ」でトニー賞を受賞した演出家ジェイソン・ムーアだ。TVシリーズを数エピソード監督したことはあったが、映画は未体験。しかし元々『30 ROCK/サーティー・ロック』の大ファンだったムーアは、キャノンが書いた脚本に一目惚れする。「ケイの文章はとても独創的でウィットに富んでいる。彼女が創造するキャラクターも同様だ。アカペラ界に関しては知らなかったけれど、ケイらしいユニークな視点で生き生きと描いているのに惹かれたんだ」と脚本を読むや、すぐに監督を引き受けた。
また映画デビューに際し、ムーア監督がボーカル・アレンジャー兼プロデューサーとしてチームに引き入れたのがトム・キットだ。ブロードウェイ・ミュージカル「ネクスト・トゥ・ノーマル」でピュリツァー賞とトニー賞を受賞した作曲家であり、「アメリカン・イディオット」やミュ―ジカル版「チアーズ」、イディ―ナ・メンゼル主演で大ヒットしたミュージカル「イフ/ゼン」を手がけたキットは、大学の各アカペラ・グループが水を抜いたプールで実力を競い合うリフ=オフのシーンで使われる楽曲のアレンジを手がけている。

ほぼ無名の若手スターが大活躍
アカペラ・グループが軸となるコメディ映画なのだから、キャスティングの絶対条件は「コメディの才能と歌唱力」だ。ダンスに関しては、プロのダンサーほどの技量は必要ではなく、振り付けを学ぶ能力が重視された。そのため主役アナ・ケンドリックやレベル・ウィルソン、ブリタニー・スノウ以外はほぼ無名の若手が起用された。
ジェシー役に若き日のジョン・キューザックを彷彿させる俳優を捜していたプロデューサー陣の前に現れたのは、スカイラー・アスティン。ブロードウェイ・ミュージカル『春の目覚め』で注目された彼の気さくな雰囲気に多くの人々が好感を持つのは間違いない。ジェシーと対照的なバンパーを演じたのは、コメディ界の新星アダム・ディヴァイン。彼がクリエイター兼主演を務める『WORKAHOLICS』を見たバンクスの大抜擢で、出演オファーを受けた当初「歌えない」と渋っていたのに、オーディションで抜群の歌唱力を披露して製作陣の度肝を抜いたあたりもバンパーっぽい!?
「ベラーズ」に仲間入りする若手女優も個性派揃いだ。シンシア役で女優デビューを飾ったのは、シンガーソングライターのエスター・ディーン。リアーナやケイティ・ペリーに楽曲を提供していた彼女を強く推したのは「本格的なミュージシャンをどうしても起用したかった」ムーア監督で、ディーン本人も演技開眼したのは間違いない。普段はささやき声なのに実はビートボクサーの達人とわかるリリー役を怪演したハナ・マエ・リーもこれが映画デビュー。モデルからスタンダップ・コメディアンに転身した変わり種の彼女は菊地凛子に激似だが、キモいのか可愛いのか判然としないミステリアスさが印象的だ。また過剰なセックスアピールで笑いを取るステイシー役のアレクシス・ナップは、未婚のままライアン・フィリップの娘を出産した一件でメディアの注目を浴びたが、セクシー美女なだけでなく実は歌も踊りもコメディ演技も達者と本作で証明してみせた。

アカペラ・ブートキャンプ
歌手のミスをカバーするピアノやギター、ドラムといった要素がないアカペラだからパフォーマーが音を外すと最悪。ムーア監督は、撮影前4週間をアカペラ・ブートキャンプに当てた。個人差がある歌唱力やダンス能力を一定レベルまで引き上げ、グループとして完璧なハーモニーが生まれるようにするのが目的とした。また各人の声域に合わせてアレンジされた歌を完璧に歌いこなせるようになり、なおかつダンスの振り付けも完璧にマスターしなくてはならない。というわけで製作陣は、アカペラ・ブートキャンプを敢行!それは1日10時間どっぷり歌と踊り浸けになることを意味していた。午前中、「ベラーズ」と「トレブルメーカーズ」のメンバーはそれぞれのレパートリーから1曲を与えられ、各人がボイスコーチやダンス教師について各自のパートと振り付けを特訓。昼食後はまた別の曲を同様に特訓ということを続け、最終仕上げは撮影スタッフ全員の前でのリハーサル。これによって役者たちは大勢の観客を前にするパフォーマンスシーンにも緊張しなくなった。

アカペラ界のゴッドファーザーが音楽チームに参加
アカペラは編曲が勝負!誰もが知る楽曲もハーモニーやリズムを変えるとまったく別物に聞こえる場合もあるし、歌詞がない間奏部分を埋めるボイス・パーカッションやビートボックスの入れ方も重要となる。というわけで製作陣が頼ったのは、原作にも登場するエド・ボイヤーとディーク・シャロンを音楽監督に迎え入れた。2001年に大学生だったボイヤーが自身のアカペラ・グループのCD製作のプロデュースをシャロンに依頼して以来のチームは、『glee/踊る♪合唱部!?』やアカペラ・オーディション番組『ザ・シング・オフ』で編曲を担当。しかし“アカペラ界のゴッドファーザー”と呼ばれている二人にとっても本作の音楽を担当するのはチャレンジだった。
「通常の編曲だと歌手やグループの声域に合わせ、より良く聞こえるように変えるだけ。でも映画の場合はストーリーラインに合った選曲とシーンに応じて目立たせるべき役者のことまで考えなくてはならなかった」とボイヤーは言う。二人は役者たちに歌の特訓とレコーディングをするだけでなく、編集チームにも協力。作業段階でシーンの長さが変わるのに応じて音楽のミキシングを変化させたり、使用する曲自体を変えたりと柔軟に対応しながら作品を完成に導いた。
また原作にも登場するヴァージニア大学の男性グループHULLABAHOOSをはじめ、チュ―レン大学のGREEN ENVYとフロリダ州立大学のALL-NIGHT YAHTZEEが撮影にエキストラとして参加。オーセンティックでパワフルなアカペラを披露している。

クールだけどリアルな振り付け
YouTubeで大学アカペラ選手権の映像をチェックすればわかるが、曲のアレンジだけでなく振り付けも非常に凝っている。ストーリーをより引き立てる振り付けを求めた製作陣と監督が声をかけたのは、アコモン“AJ”ジョーンズ。マドンナやジャスティン・ティンバーレイク、ジャスティン・ビーバーといった人気ミュージシャンのダンスを振り付けるAJのダンス・スタイルは、ヒップホップが基本。アカペラ・グループの振り付けはチャレンジだったが、彼とアシスタントのキンドラ・リーヴィーは「ちょっと古くさいダンスを最新風にする」をコンセプトに、クールではあるが大学のアカペラ・グループらしいリアルな振り付けを考案した。AJが特に気をつけたのはスタイルで、劇中で使われるニッキー・ミナージュやフロ・リダ、マイリー・サイラスといった最新の音楽にマッチしたスムーズな動きにこだわった。